indigo elegie

È come un sogno

 触れた指先が思っていたより熱くて。
 その驚きを誤魔化すように瞳を閉じ、そして、唇に触れた温もりが離れる瞬間に目蓋を上げた。
 そこにいたのはよく知る顔。見つめてくる双つの灰青色は深く。その静けさに身動きもとれずただ視線だけを絡ませることしかできない。
 言葉にならない思いは、胸の中で大きく膨らんでいく。
 想いが通じるとは思っていなかった。
 もう戦えない自分と、戦い続ける彼は遠い存在になってしまったから。それでも自分にできることで兵団に尽くそう、この命を預けていこうと思った。
 そう思っていたのに。
 ──好きだ。
 早鐘のように鳴り響く心臓の鼓動は、耳の奥まで届くほどうるさくて。その音が兵長に聞こえていないだろうかと不安になる。けれどそんな思いとは裏腹に、目の前の彼の口許がわずかに緩む。そしてまた唇が落ちてきた。
 先程よりも少し長く。押し当てられたその感触は柔らかく、どこかぎこちなく思えた。
 もう一度離れる。そしてまた触れる。
「……あ……」
 吐息のような小さな声を漏らすと、再び口づけられる。今度は強く。まるで私の全てを吸い込もうとするかのように。
「兵長……」
 名を呼べば。
 その瞳の奥に、今まで見たことのない色が灯った気がした。
 切なさ、痛み、苦しさ。そして──愛しさ。
 こんな感情をぶつけられて平気なはずがない。
 私は彼の背に腕を伸ばし、自分の方へ引き寄せる。それはまるでもっとして欲しいという催促のようだったかもしれない。兵長が息を呑んだような気配を感じた直後、身体を引き寄せられ唇を塞がれる。
 必死にそれを受け止めながら背中にしがみつくように手を回せば、さらにきつく抱きしめられた。

 ──はなさないで

 心の深いところまで届いてしまいそうな深い口づけに、呼吸の仕方を忘れてしまう。それに気付いた兵長が、そっと唇を離す。
 名残惜しげに濡れた唇の表面だけをかすめていくその感触に身を震わせれば、そのあとを追うようにして彼の舌が私をなぞりあげた。背筋を走る甘やかな感覚に翻弄されそうになる。
 何度も何度も。優しく。時に激しく。
 そのたび全身の力が抜けていって。
 このまますべてを委ねたいと思うのと同時に、何もかもを投げ出して逃げ出したくなる。
 相反する気持ちを持て余しながら、溺れるような口付けを何度も交わした。

  

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