深呼吸を繰り返す。そわそわと落ち着かない心を押さえつけ、ぎゅっと目を閉じる。緊張から生じる渇いた口内を自覚しつつ、わたしは静かに視線を上げた。無機質な白い壁。シンプルな造りのドアが、わたしと彼を隔てている。
──来てしまった。カドックの部屋に。
壁一枚隔てた向こうに彼がいる、はず。わたしと同じように彼も緊張しているだろうか。
ダ・ヴィンチちゃんの工房から自室に戻り、とりあえずシャワー室に飛び込んだ。流れる水の音を聞きながら、これからのことをぐるぐると考えていた。すぐ戻ってくるかもしれないけど、念のため、と言い聞かせながら全身を念入りに洗い、ハベにゃんから貰った化粧水とボディクリームを塗って肌を整えた。鏡に映る自分の顔は期待と緊張で強張っている。頰に手を当て、ふーっと深呼吸。軽く叩き、気合いを入れて部屋を出た。
指先が微かに震えるのを感じながら、コンコン、とノックする。中から微かに物音がして、少しの間のあとドアがスライドした。白いコートは脱いでおりインナー姿のカドックが現れた。わたしを見下ろしてくるアンバーの瞳が交じると僅かに揺れた。
「待ってた」
「お、お待たせしました……?」
ふ、とカドックが笑う。つられてわたしも口元を緩ませた。中に入るよう促され、おずおずと足を踏み入れた。背後でドアが閉まる音を聞きながら室内を見回す。この部屋に入るのは初めてではないけれど、前とは状況が違う。恋人、とお互いに認識しているのだ。どう振る舞えばいいのかわからず立ち尽くしてしまう。カドックはベッドに腰掛けると、無言で隣をぽんぽんと叩いた。座れ、ということだろうか。
「う……」
ベッドに座ったらいきなり始まるんではなかろうか。キスとか、それ以上のこととか。いやでも……そんなことを考えてしまって、思わず視線を彷徨わせてしまう。カドックはそんなわたしの様子をじっと見つめていたが、やがて痺れをきらしたのか、わたしの腕を掴んで引っ張った。
「うわ!」
バランスを崩し、ぼすん、とベッドに倒れ込む。シーツに顔を埋めるとふわりとカドックの匂いに包まれた。それだけで心臓が跳ねて鼓動が早くなる。体を起こして、おそるおそるカドックのほうを見ると足を組んだままの彼と視線が交わった。
「意識しすぎだろ……」
「だって緊張するよ!」
「ま、そりゃそうか」
カドックは苦笑を浮かべる。ベッドに座り直すと二人分の体重を受けベッドがぎしりと軋んだ。それがやけに生々しく聞こえて、緊張からわたしは再び身を固くする。一方のカドックはわたしのほうに手を伸ばし、頰に触れた。
「僕も緊張してる」
「……ほんと?」
「本当」
膝の上でぎゅっと拳を握り締め、そっとカドックのほうを窺い見る。彼もまたわたしをじっと見つめていて、お互いの視線がぶつかった。ドキドキと高鳴る心臓の音が聞こえてしまうんじゃないかと、そんなことを考えてしまう。
「顔真っ赤」
「う、うるさいっ」
「こんなガチガチな藤丸を見るのは気分がいいな」
カドックは楽しげに笑って、わたしのほうに身を乗り出す。馬鹿にされた気がして「どういう意味?」と不満げに言うと、彼は笑みを深くした。
「可愛いと思っただけだ」
「ぐっ」
可愛い。そんなことを言われるなんて思わなかったから変な声が出た。カドックが喉の奥で笑っているのが聞こえたかと思うと、彼の指がわたしの前髪を払い露わになった額に口づけた。反射的に顔を上に向けると、今度は唇に柔らかな感触。啄むような口づけが落とされる。唇同士を触れ合わせ、お互いの感触を確かめ合うような口づけ。自然と力が抜けていく。唇の感覚が敏感になっていくにつれ、頭がぼうっとしてくる。唇から伝わる彼の熱と柔らかさが心地いい。カドックとのキスに夢中になっていると、いつの間にか後頭部を手で押さえられていた。
「ん、カドック」
口づけの合間に彼の名を呼んだ。至近距離で見たアンバーの瞳が、ゆらりと揺らめく。
「なに」
「これ、もう始まってる?」
わたしの問いにカドックはふっと息を漏らす。こういうこと聞くものじゃないんだろうけど、雰囲気に耐えられなくて聞いてしまった。
「……始めたいから、口開けて」
掠れた声で囁かれる。より深い口づけへと誘うように、カドックの唇がわたしのそれを塞いだ。抗えない誘惑におずおずと唇を開く。濡れた舌がわたしの唇をなぞり歯列を割って入り込んでくる。口内を探るように這い回る舌の感触にぞくりと背筋が震えた。縋るものを求めて彼の肩に腕を回す。絡み合う舌と混ざり合う唾液が、わたしたちの興奮を煽っていく。
「んんっ」
恥ずかしいくらい甘ったるい声が漏れる。宥めるように頭を優しく撫でられていることに気づき、途端に自分が子どもになってしまったようで居た堪れない気持ちになる。カドックはキスの合間に吐息を漏らしながら、角度を変え何度も口づけてくる。わたしはもう、息継ぎするだけで精一杯なのに。
「ふぁ……んっ」
ぼんやりと霞がかった頭の片隅に、以前キスされた時のことが蘇る。たしか、こんな感じで舌先を軽く吸われて……。気持ちよさと苦しさの狭間で思考が定まらないまま、舌を伸ばすようにして自分の舌を絡める。少しだけカドックの反応が変わった気がして薄目を開けると、彼はわずかに目を開いていた。わたしから求めるのは初めてだったから驚いたのかもしれない。そのまま軽く舌を吸ったり食んだりを繰り返していると──グッと体にまわされた腕に力がこもり、体重をかけられてベッドの上に押し倒された。
「わっ」
背中にスプリングの感触が伝わり、ぎしっと軋む音が響く。見上げる形でカドックと見合うと、彼の薄い唇から赤い舌が見えた。それは唾液で濡れたわたしの唇をぺろりと舐める。唇が触れるような距離で彼が囁く。
「どうする」
艶っぽい声音と揺らめく瞳。その熱量に息を呑む。この先に待っている未知の体験に怖気づく気持ちと、もっと深くまで知りたいという欲求がせめぎ合う。
迷って、出てきたのは言葉なんかよりもずっと雄弁な眼差しだけ……。
頰に熱が集まるのを感じながら、「続けて」とだけ伝えた。カドックは嬉しそうに目を細めたかと思うと、顔を傾けて再び唇を重ねてきた。覆い被さる彼の重みを全身で受け止める。熱い吐息を重ねながら、舌先が触れ合う感覚にゾクゾクする。濡れた水音と擦れ合う舌の感触。ゆるく歯を立てられるたびに甘い疼きが生まれ、喉の奥から媚びるような声が無意識に洩れてしまう。恥ずかしいのに、止められない。
「っん、……ぁ」
わたしの反応を見ながら、カドックは掌を滑らすようにして肩から背中を撫でる。体の曲線を確かめるような手つきだけど、キスに翻弄されているわたしはそれをただ受け止めることしかできない。胸元をまさぐる掌の感覚に、思わず小さく声が上がった。
「や、ぅ……」
布越しに、やんわりと胸を揉まれる。熱を帯びた掌で輪郭を確かめるように触れられて、恥ずかしさのあまり顔が火照っていく。キスで滲んだ涙越しにカドックと視線が交わった。
「藤丸」
「な、なに」
「脱がせたいんだけど」
「えっ」
アンバーの瞳が熱を帯びて、わたしを捉えた。カドックの手が服の裾から入り込んで熱い掌が脇腹をなぞり上げる。ぞわ、と肌が粟立つ感覚。思わず身を捩ると、咎めるように耳たぶを甘噛みされた。
カドック、すごくやる気だ。裸になるのは恥ずかしいけど脱がなきゃ始まらないのもわかっている。
「自分で脱ぐから。待って」
肘をついて少し体を起こす。熱っぽいカドックの視線から逃げるように背を向けて胸元のベルトを寛げた。魔術礼装の着脱は慣れてないと時間がかかる。カドックは急かすこともなく、じっと待ってくれている。
「──あ」
黒のインナーを脱ごうと裾を持ったとき、小さく声が漏れた。
しまった。下着のことを忘れてた。こういう時って可愛い下着とかセクシーな下着をつけたほうがよかっただろうか。生憎、身につけているのは色気も何もない、機能性通気性抜群のカルデア支給スポーツブラなんだけど。元々こういう状況になることを想定していなかったから勝負下着的なものは持ち合わせていない。
どうしよう、と逡巡していると不意にカドックの手が伸びてきた。
「どうした」
後ろから腰を抱くようにして密着し、肩口に顔を埋められる。甘えるように額を擦り寄せてくる仕草に心臓がどくりと跳ねた。
「僕が脱がせていいのか」
耳元で低く囁かれる。耳朶にかかる吐息と色気を含んだ声に胸がきゅうっと締めつけられる。返事をする前に服の中に入り込んできた手が直接肌に触れ、指先でショーツのふちをなぞる。
「ちょっと待って。話があります」
「は……?」
この状況で? とでも言いたそうな目で、カドックはわたしの顔を覗き込む。
「あの、下着が地味すぎてムードとか全然ないなって。今、思ったんだけど」
「……」
カドックは少しの間、わたしの言葉の意味を噛み砕いていたようで。やがて理解すると、はあ、と重たくため息をついた。呆れているのかもしれない。黙って彼の反応を待っているとお腹にまわってた腕に力が入って、ぎゅうと抱き締められた。
「ぐえっ」
「色気のない声」
「……色気は元々ありませんが」
「なんでそういうところだけ妙に自虐的なんだ」
カドックはわたしの肩に顎を乗せて、呆れたように言う。背中に彼の体温を感じながら身を縮こませる。密着したせいで彼の心音がわたしの鼓動と共鳴する。早いリズムになんだか落ち着かない。
「下着とか気にするんだな」
「だ、だって。そういうのも醍醐味なんでしょ。知らないけど」
「人によるだろ」
じゃあカドックはどうなんだ、と訊こうとして、やめた。今訊いたらなんだか空気が変になりそうな気がするから。
「……大体な、ムードなんて最初から関係ないだろ。幽閉室だぞここ」
たしかに、この殺風景な部屋にムードもへったくれもない気がする。わたしは小さく笑って、そうだねと返した。
「相手がカドックなら、どこでもいいよ」
普通の高校生をやってたころ。映画や漫画の影響で、初めてはお洒落なホテルや恋人の部屋で愛し合うシチュエーションを想像することはあった。憧れはある。でもそれ以上に誰と触れ合うかが大事で、場所なんて些細なことなんだ。
カドックはわたしの言葉に瞠目して、「そうか」と小さく呟いだあと、首筋に顔を埋めた。首筋にそっと唇が押し当てられて、吸われる感覚に肌がひりつく。
「っ、ん」
「僕だって、藤丸に触れるならなんだっていい」
カドックがわたしの唇を指でなぞる。それが口づけの合図だと、もうわたしはわかっている。自然と瞼が下がり与えられる熱を待つ。触れるだけの優しい口づけ。再び体がシーツの海に沈み込む感覚を味わいながら、わたしはカドックに身を委ねた。
***
優しく、それでいてねっとりと口づけを繰り返されて、唇から漏れる声は甘さを増す一方だ。あっさりインナーとスポーツブラを奪われると、露わになった胸を掌全体で撫でるように触れた。ふわふわ、と感触を楽しむように包み込んだかと思えば、ふいに胸の先を指先で押し潰される。それだけでも息がつまったのに、唇を舐められてまた口を塞がれた。
カドックの口づけにすっかり翻弄されているうちに、彼の指が胸の先端を擦ったり摘んで捏ねたりと好き放題に弄り始めた。今まで経験したことのない感覚から逃げ出そうともがくわたしを、彼は体重をかけて抑え込み執拗に攻めてくる。
「ん、ふぁ……かどっ」
合間を縫って息をしようとすると、その度に甘ったるい声が漏れる。羞恥から身を捩ってもカドックの拘束は強くなるだけだった。上擦った声が自分のものではないみたい。指先で弄ばれている先端が固く芯を持ち、熱を持つのがわかる。執拗に触れていた指先が、不意に離れた。と思ったら、すっかりと勃ち上がった胸の先端を生暖かい感触が襲う。
「うあっ、ぁ……っ」
舐められてると認識した瞬間、反射で体がしなる。胸元で彼の銀色の髪が揺れてくすぐったい。強く吸い上げられ、たまらず彼の肩に手を添えて押し返そうとしたけど力が入らない。舌先が乳房の輪郭をなぞるたび、ぴく、と体が跳ねてしまう。
「や……やめ」
「やめない」
「そんな、んんっ……」
突起の周りも丹念に舌でなぞられ、時折思い出したように胸の先を吸い上げられる。もう片方は指で愛撫されて、行き場のない熱がお腹の奥に溜まっていく感覚。両方に異なる刺激を与えられて思考が鈍っていく。
「ちょ、一旦休憩……っ」
「いやだ」
即答か! 無理強いしないって言ったのに。その言葉の意味を問いつめたい。文句を言ってやりたかったけど、カドックの愛撫は止まらなくて。強く吸われて腰が浮いた。
「ぁ……は、っ」
柔らかな舌にねっとりと愛撫されて、濡れた熱い舌が肌の上を滑るたびに呼吸が浅くなる。お腹の奥が疼くような、未知の感覚。触れられている胸の中心もすごくじんじんする。
こんなの知らない。自分の体がおかしくなりそうで怖い。やめてほしいのに、もっとしてほしいとも思ってしまうわたしは、どうしちゃったんだろう。
胸元からカドックの唇が離れる。唾液に濡れたそれが赤く色づく先端を啄むたびに、甘い刺激が走って体が揺れた。彼は胸の谷間に口をつけて吸いつくと、白い肌の上に鬱血の痕を強く残していく。
「あ、痕つけた……?」
「見えないからいいだろ」
カドックの瞳に宿る熱を見ていられなくて、ぎゅっと固く目を閉じた。ちゅ、と吸いつく音がやけに響く。
「ぁ……ん、く」
胸を愛撫されたことなんてないのに、体はしっかりと快感を拾い上げてしまうのが不思議だ。カドックに触れられる度にわたしの体の内側に熱がじくじくと溜まっていくみたい。
ようやく唇を離したカドックは満足そうに目を細め、口の端を舐めるように自身の指で触れた。赤い舌がなぞった部分が唾液で濡れて色づいていて妙ないやらしさがある。視線に気づいたのかこちらを見下ろすアンバーの瞳と目が合ったけれど恥ずかしさで直視できない。
視線を彷徨わせたわたしを無言で見下ろすと、胸に置いていた手を下の方へそっと滑らせていくのが見えた。ショーツと下腹部の境目辺りに触れられて身を固くする。
「ゆっくりするから、力抜いてろ」
「う、ん」
耳元で囁かれて吐息混じりの声が漏れる。ショーツの中に手を入れられて、とうとうきた、と無意識のうちに体が強張った。カドックが微かに苦笑する気配がする。
「……さすがに、ここは緊張するか」
「最初からずっとしてるよ!?」
「喋る余裕はあるみたいだな」
そんなのない、絶対ない。わたしの答えも聞かないで、カドックが秘裂の割れ目をなぞり上げた。
「うっ」
自分で触ってないけどわかる。濡れてる。しっかり反応していた事実に逃げ出したくなった。恥ずかしくてたまらない。
わたし、キスと胸を舐められただけでこんな風になっちゃったの……?
細いけれど無骨な指が探るように割れ目を往復する。何度か撫でたあと、ショーツから手が引き抜かれた。ほっとしたのも束の間、カドックはわたしのショーツに手をかける。足を持ち上げられ抵抗する間もなく脱がされてしまった。これでもう何も身に纏っていない。生まれたままの姿をカドックの前に晒している。足を開かされ、その間にカドックが割り込んできて閉じたくても閉じれない。羞恥と戸惑いが押し寄せてきて、わたしは手で体を隠して唸ることしかできなかった。
「あの、あんまり見ないで」
「無茶言うな」
「カドックも脱いで」
「……」
不公平だと言うようにジト目を向ければ、カドックは無言で体を起こした。インナーに手をかけバサッと躊躇いなく脱ぎ捨てる。引き締まった肢体が現れてぐっと息を呑んだ。痩身だと思っていたのに意外と筋肉質だったなんてずるい。目が離せないでいると不意に太ももに掌が落ちてきて、びくりと体が跳ねる。
「続けるぞ」
え、と思う間も無く秘裂に指が這わされ、同時に唇を奪われ再び意識がそちらに向いた。下唇を食まれ、何度も角度を変えて口づけられる。その間も秘裂を指で愛撫され、ぴく、と足が痙攣した。
「ん、や」
キスの合間に声が漏れる。自分のものとは思えないほど高く甘えた声に、カドックの喉が微かに上下したのが分かった。唇が離されると今度は頰に触れる。首筋を唇でなぞられ、鎖骨を軽く吸われたあと優しく胸の先端を口に含まれた。
「んん……、あ……」
舌で何度も舐られ、時折軽く歯を立てられる。秘裂の上に置かれた指は愛液を掬って芽を探り当てたらしく指先がそこを優しく擦り上げた。
「ひぁ、あっ」
感じたことのない刺激に体がのけ反る。痛みのような、熱さのような。未知の感覚に思考がついていかない。ただ、目の前にいるカドックにしがみついた。
「っ、藤丸」
「や、何これ、怖い」
「……大丈夫だから」
腰が引けそうになるわたしを、カドックが宥めるように抱き寄せる。
「うっ、ああっ」
ぬめりを塗り広げるように優しく、丹念に芽を撫でられて背中がびくびく震える。お腹のあたりが熱い。知らない感覚に不安になるけれど、カドックの手の動きは優しいままだ。
「んっあ……っ」
鼻にかかる甘えたような自分の声が気になって仕方ない。でも声を出せば幾分か楽な気がして、刺激に耐えながら抑え気味に声を上げる。カドックの指が秘裂から離れ、ひやりと外気に晒される感覚。
「う、ん?」
思わず目を開けると、カドックと視線が合う。じっと見下ろされ、今度は何をされるんだと体が強張った。
「……蹴るなよ」
「え?」
それだけ言うとわたしの足を開かせ、あろうことか太腿の間に顔を突っ込んだ。
「え!?」
混乱するわたしをよそに、カドックは躊躇いもなく割れ目の辺りをべろりと舐めた。舌先が窪みをなぞり、芽をざらついた舌でねっとりと舐められ、秘裂を左右に割り開かれる。粘膜の部分をゆっくりと舐め上げられて背筋がぞくぞくする。強く芽を吸い上げられると膝から力が抜けそうになった。
嘘。そんなところ、舐めたりするものなの?
「やっ、やめっ」
カドックの熱い舌が、柔らかい唇が、容赦なく芽を嬲っていく。逃げたくても腰を抱え込まれて逃げることが出来ない。強すぎる刺激に内腿が痙攣するけどカドックはやめてくれない。湿り気のある音、吸い付く音に聴覚から刺激されて頭がおかしくなりそうだ。
「やだ、カドック……っ」
羞恥心に耐え兼ねて叫ぶけど顔を上げてくれない。舌の動きも止まってくれなくて、溢れた愛液がお尻まで伝っているのが自分でも分かる。それにカドックの指がさっきから何度も秘裂の入り口を行き来して時々指が内側に入り込もうとしてくるのだ。くぷ、と音をたてて指先をほんの少し入れ込んで、すぐに抜き出される。その度に蜜がとろりと垂れる感触がひどく恥ずかしい。
「あぁ、あ……っ」
ようやく離れたカドックが、足の間から顔を見せた。口周りが濡れて、手の甲でそれを拭っている姿にくらくらする。
わたし、なにされてた?
ぼんやり見つめながら乱れた呼吸を繰り返していると、カドックが体を起こしてわたしと視線を合わせる。
「まだ終わりじゃないからな」
「……っ、わかってる……!」
羞恥のあまり、つい口をとがらせた。そんなわたしに、カドックは微かに笑みを浮かべる。
「指入れるから。力抜いてろ」
「うん」
まだ終わらない。この先があることは知っている。こくりと小さくうなずくと、カドックが蜜口に中指を当てて、ゆっくりと押し込んだ。
「くっ……」
鈍い痛みを感じて息を詰める。カドックの指が侵入していくごとに、裂かれていくような感覚に体が震えた。
時間をかけて、入れては抜いて少しずつ奥に向かっていく。指を折り曲げて壁を押し広げながら、中を探るように内壁を撫でていく。違和感が強くてその度に息を吞む。じわりと汗が滲んで、ぎゅっとシーツを握り込んだ。カドックは辛抱強く内側をほぐしながら指を奥へ奥へと埋め込んでいく。
「大丈夫か?」
「ん、大丈夫。ちょっと痛いけど……」
痛みと異物感はあるが我慢できる。そう答えるとカドックがほっとしたように息をついた。
「少しずつ動かすからな。我慢できなくなったら言えよ」
カドックが一度引き抜いて、今度は中指と一緒に薬指を添える。増した圧迫感と痛み。きつく瞼を閉じて耐えていると、カドックの唇が瞼に触れた。汗で張りついた前髪を、頰を、安心させるように唇が触れていく。その間も下半身の刺激は止まず、ゆっくりと前後に動かされた。しばらくして中で二本の指を広げられる。ぐちゅ、といやらしい音が響いた瞬間、カッと体が熱くなった。
「あっ、う」
ゆっくりと出し入れが繰り返されて、ぞわぞわと肌が粟立つ。頭が蕩けて力が抜けていったころ、カドックの指が根元まで押し込まれた。痛い、苦しい。そればかりじゃない何かが背中を這い上がってくる。お腹の下のあたりが熱い。お腹というか、もう少し下のところかも。知らない感覚に戸惑っていると、カドックが熱い息を吐いた。時間をかけて中を押し広げていた指の動きが止まる。
「藤丸」
低い声で名前を呼ばれる。目を開けると苦しそうな表情をしたカドックがわたしを見下ろしていた。
「どうだ?」
「どうって……?」
「痛いとか、気持ちいいとか」
「痛みはまだあるけど……わかんない」
「そうか」
初めては痛いと聞くけどこれくらいの痛みなら耐えられる。気持ちよさは、今の時点ではよく分からない。ただ、奥が熱いような。よくわからない感覚でうまく言葉に出来ない。
カドックが体を起こすと蜜口から指を引き抜いた。垂れた愛液を舐めとる姿に衝撃が走る。
「なっ……やめて!!」
恥ずかしくて思わず叫ぶ。「うるさ」とカドックがくすりと笑った。膝立ちになり、スラックスのベルトを引き抜いて前を寛げた。下着を押し上げる膨らみが見えてごくりと喉が鳴る。カドックが下着をずらすと、中からふるりと雄芯が出てきた。わ、と声を上げそうになって口を押さえる。初めて見る勃起した男性器。あまりに刺激的な光景に目が釘付けになる。
これがわたしの中に……?
怖気づくわたしの膝を掴むと、左右に開かせた。
「ちょっと待った」
「わかってるから。おい逃げるな」
また足を閉じようとする動きを、はいはいと手で制する。そしてベッドサイドのキャビネットの引き出しを開けると小さい箱を取り出した。避妊具だ、と理解したと同時になぜこれがここに、という疑問が浮かぶ。
なんで持っているの? 備え付け?
じっと観察するわたしをよそに、カドックは封を切ってスキンを取り出すと自身の昂ぶりへかぶせていく。わたしがしげしげと見ていることに気付き、カドックは顔をしかめた。
「見過ぎ」
「ご、ごめん。……ねえそれ、どうして?」
「どうしてって。無いと困るだろ」
「それはそうだけど、元々持ってたの?」
「いや……」
カドックが気まずそうに目を逸らす。
「アスクレピオスにもらった」
「はい?」
「相談したんだ。もしそういう状況になった時に必要になるからって」
「いつの間に。まさか相手が私ってバレて……」
そこまで言ってハッとする。まさか。メディカルチェックの時、あの含みをもたせた言動。もしかしてあれは───。
「名前は言わなかったけど、多分バレてる」
これを受け取る時にきつい言葉で釘刺されたからな、とぼやいているカドックに目眩がしてきた。
「うう……。他のサーヴァントにもバレたら恥ずかしすぎる」
「やめろ。下手したら殺意向けられるの僕なんだからな」
確かに。予想できる顔ぶれを思い浮かべて遠い目をしていると、カドックがわたしの足を抱え直した。腰を押し付けて、わたしの秘裂に昂ぶりをぬるぬると擦りつける。
「ひっ……」
「いいか?」
興奮を押し殺した声。これから起こることをわたしは覚悟した。
小さくうなずくと、息を吐いたカドックが入り口を探すように先端を前後に動かしたあと、ぐっと腰を進めてきた。
「っ!?──いっ、た……ぐっ」
痛い。指とは比べものにならない圧迫感に息が詰まる。めり込むようにして入ってくる昂ぶりを押し戻そうと、反射的に腰が逃げる。
「藤丸、力抜けるか」
「無理っ」
痛みに耐えようとすると、どうしても体が強張る。
すごく痛い。指でされた時と全然違う。皆こんなのを乗り越えてるの?
覆い被さるカドックの首にしがみついて、ひたすら耐える。一旦動きを止めたカドックは、わたしの様子を窺っている。じわりと額に汗が滲んでいるのが見えた。
「痛いよな」
「う、痛い……」
じゃあ今日はここまでに、という展開にならないかな。なんて淡い期待を抱くけど、そんなことはなく。
「ごめん、もう少し我慢してくれ」
「やめてくれないのっ!?」
「悪い。でも早く馴染ませた方があとが楽だと思う」
「……っ」
薄々思ってはいたけどやっぱカドックは経験あるんだろうな。痛みに呻くわたしに、カドックが優しいキスを繰り返す。頰や首筋、唇にも触れて緊張をほぐそうとしているのが分かる。カドックの昂ぶりがゆっくりと押し込まれ、引き、また少し進んでと繰り返しながら奥へ奥へと進んでいく。狭い秘裂を割開かれる度に鈍い痛みが走った。
「あっ」
痛いのに、熱くて、苦しいのに。あのカドックを受け入れてる、その事実になんだか凄く興奮してしまって、自分でもちょっと驚いている。
「ん……っ、あ」
緩やかに、でも確実に。奥へと昂ぶりを押し込んでいる。内側を圧迫する感覚、わたしに覆いかぶさる恋人の呼吸や声が耳に響く。眉間に皺を刻んで苦しそうに息を吐いているカドックの頰に汗が伝って、わたしの胸にぽたりと落ちた。頰が上気して欲に濡れた瞳を隠さないカドックの色気にあてられそうだ。
正直に言うと、まだ苦しいし痛いしで気持ち良さとかはあんまりない。けれど、カドックがわたしを求めてくれているということが嬉しくて、もっと気持ち良くなってほしいと思っている自分がいる。
優越感に似た劣情を密かに感じていると、カドックが動きを止めた。
「っ、入った」
は、と息を吐きながらカドックが呟く。熱い手がわたしのお腹を撫でた。首を動かして彼の下腹部を見る。密着したお互いの下半身。本当に繋がっているんだと改めて実感する。
「すごい……ほんとに入ってる」
そう呟くと、カドックの顔の赤みが増した。中の熱い塊がわたしの内側をぐり、と押している。息を整えているとカドックの顔が近づいて唇が重なった。
「っ、ん」
何度も角度を変えて、お互いの舌を絡ませる。その間も繋がったままの下半身はじっと動かない。時おり漏れるカドックの吐息が熱くてくらくらした。
「カドックは気持ちいいの?」
キスの合間、そう尋ねるとカドックが苦笑した。
「分かるだろ」
「初めてだから、わかんないよ」
拗ねたように呟くと、カドックがまた苦しげに息を吐いた。それからわたしの耳元に唇を寄せる。
「すごく気持ちいい」
熱い吐息と共にそっと囁かれた響きはとろけるように甘い。
ジンジンと痺れるお腹の奥に、カドックの昂ぶりが擦れて腰が震える。ゆっくりと律動を始めたカドックの動きに合わせてわたしの口からも声が漏れた。
気持ちいいとか快感とか、まだよくわからない。ただ、触れ合う肌の熱さと耳元で聞こえる乱れた呼吸は心地よかった。カドックがわたしで興奮しているのが嬉しくて頭の中が沸騰するみたいになって、なにも考えられなくなっていく。ぎゅっとカドックにしがみつけば、強く抱きしめられる。その力強さにすがりつく腕の強さに胸が高鳴った。
お互いの息づかいと、軋むベッドの音、布擦れの音、そして肌のぶつかる音。色んな音が重なりあって耳を侵す。
「あっ、あ、んんっ」
「くっ、ぁ……藤丸……」
カドックの唇が喉元に甘く吸い付く。舌でなぞりあげるように舐められて、あられもない声を抑えることができない。その間にも律動を続けられて脳天から足の爪先まで電流が流れるみたいな刺激に支配される。激しくなる動きに思考が溶けていって、与えられる刺激の波に飲まれていった。強く腰を押しつけられた瞬間、カドックの昂ぶりが震えた。
「っ、あ」
脈動を何度か感じたあと、カドックが覆い被さるようにわたしを抱きしめてきた。荒い呼吸と共に汗ばんだ体が密着する。お互いまだ呼吸が整わなくて、しばらく呆然と天井を見つめていた。全身から力が抜けて、今にも意識が飛びそう。
「大丈夫か?」
「……ん」
カドックの声に辛うじて返事をする。ベッドに体がそのまま沈んでいきそうだ。熱っぽい瞳で見つめられて、そのまま瞼が重くなっていく。額に張り付いた髪を払ってくれる手の感触が心地よい。だんだんと視界がぼやけていく中で、カドックの唇がゆっくりと近付いてくるのが見えた。瞬きをして焦点を合わせるけれど、すぐにまたぼやけてしまう。やがて柔らかい感触と共に温かなものが触れた。
「藤丸、──」
カドックの声が、じわりじわりと染み込むように溶けていく。彼の唇がもう一度触れた気がしたけれど、それが夢なのか現実なのかわからないまま、わたしは眠りの淵へと沈んでいった。